AEVE ENDING








『さようなら、橘』

部屋から出ていく倫子の背中が、そうして緩やかに消えていく。
自ら口にした別れの言葉は思いの外、自身の身のうちに響いたらしかった。

醜いままの、その皮膚の下に潜む、歪んだ塊を。



「まだ、なにひとつ」


わかっていなかったのだと気付く。

溢れ落としたわけではないのに。

まるで指の隙間から落ちていってしまった、大切ななにかの欠片のようだと。


離れて、気付くのだろうか。
その傲慢なまでに公平な精神の煩わしさに。



『―――あんたには、解らない』


そうだね。

きっと一生、解りはしない。

その体を裂かれた痛みも踏みにじられなにもかも。



『ぅぁ、あぁあっ…』


蘇るのは、幻想の奥で聞いた、腸を揺るがされるような、慟哭。

それは、願いだ。



(…いつか、鳴かせられるなら)


そうして、この手で、いつか。







───第二章、幕。




そうして僕らの、一度目の別れ。

罪と呼ぶなら、それは寧ろ優しい。







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