AEVE ENDING
「答えには花丸をあげます、ミス橘。ですが、広範囲のテレパスはまだまだのようね。今日も居残り」
優秀な講師であるミスレイダーから居残りを言い渡されるのはこれで通算百七回目である。
自分が情けなくて、ぐうの音も出ない。
「ミス橘!返事は?」
「…はい、ミスレイダー」
今度ははっきり声を出して返事をしたが、その声色はひどく情けなかった。
偽物の純白で塗り潰された精錬な空気の中、ぽとりと落ちた一滴の墨汁のように。
(…あーあ、やってらんねえわ)
「ミス橘!」
ふて腐れて頬杖をつきなおした所で、ミスレイダーの厳しい一喝が飛ぶ。
····
―――あぁ、また飛ばしてしまった。
何度も繰り返しているミスに謝罪して、私は仰ぐように採光用の窓に目を向けた。
薄暗く灰色の雲が空に何重にも棚引いている。
どんよりと重量を感じさせるほど膨らみ、濃度の高い毒素を含んだそれが晴れることはない。
外壁に吹きつける潮風は、不愉快な臭みを以て錆と毒を運んでくる。
(…この空に、鳥は飛ばない)
私が指導を受けているこのクラスは、「サイレントクラス」と呼ばれている。
白いだけの空間は、他に気を散らさないと考慮されているらしいが、逆に眼球がチカチカして頭が痛くなるのであまり好きではない。
「サイレントクラス」。
アダムの一種、サイコキネシスとして必須科目のテレパス専門として、その「音」を要しない授業内容からそう名付けられた。
受け持つのは第一級アダムのミスレイダー。二十七歳、独身。
そしてテレパスは、私が最も苦手とするサイコキネシスの一種である。
自らの意志を電波信号に変換して、他人の脳へと直接伝達するというもの。
場合によっては脳を麻痺させたり、個体を占拠して対象物を操る事も出来るらしい。
尤も、そんな荒業ができるのは最高位に立つ強力なアダムくらいだ。