AEVE ENDING
(…馬鹿馬鹿しい)
見ていた夢を思い出し、雲雀は不機嫌を露にする眉間に更に皺を刻む。
それに関し、更に不可解だと顔を歪めた鍾鬼をよそに、雲雀は支度を整え扉へと向かった。
「行くよ」
そうして素直に後についてくる鍾鬼は、雲雀の隣は並ばない。
雲雀の実力が自分を上回るからか、ただ、留学生という立場故か。
(…目障り)
なにも考えず、ただ対等に隣を歩いていた倫子が、まるで空想のように視界を掠めていく。
(望むようなものは、なにひとつ残らなかった筈だ)
そして気付かない振りをする。
(…いつも、)
それで、よかった。
「味噌汁と白飯、…たくあん」
ざわつく食堂に、鍾鬼の凛とした声が響き渡る。
なんの因果か、留学生の鍾鬼は日本の味噌汁と白飯、そして漬け物にハマり、ここ数日は三食関係なくそれだけを食していた。
(煩わしい…)
そのセレクトは、朝から雲雀の脳を支配する人物を彷彿とさせる。
(あの夢を見たのも、きっとそのせいだ)
苛立ちを紛らわすように無意識に、ざわつく食堂を見渡した。
こちらを盗み見ていた生徒達が慌てて顔を反らすのを視認して、しかし思い描いた姿はない。
「…雲雀?」
鍾鬼の呼び掛けに視線を床へと落とすが、あまりの馬鹿馬鹿しさに自嘲が漏れそうになった。
初めて、この名前を呼び捨てにしたアダムと鍾鬼が重なるなど、尚更。
「…今日、どんな授業か」
食後、国から茶道道具一式を持参して注いだ中国茶を楽しんでいた鍾鬼の独白に、近くを通りかかった武藤が振り向いた。
「今日は梶本だぜ。なんでも、火災になった貧困エリアの後片付けするんだとか」
「……ひんこんえりあ」
鍾鬼が、武藤の言葉を反芻する。
初めて聞く言葉なのだろう。
新しい単語は、いつも反芻して意味を導き出そうとする。
「貧乏地区…か?中国にもあったよ」
頭の回転が早い分、すぐに意味を理解し次の言葉を紡ぐ。
武藤はそんな鍾鬼を、大したものだと暢気に誉めた。