AEVE ENDING






「この前、大火災が起きたまま放置されてんだ。人間も、多く、死んだ」

そう語る武藤の表情は淡々としていたが、その裏、悼んでいるのだろう。

―――人間の死を。



(橘には、酷なセクションだね)

元を辿れば、件の火災は倫子に原因があるとも言える。

人類の亜種───アダムの反旗、闇組織の所業。
散々泣き喚いた憐れな泣き顔は、今でも鮮やかに蘇る。


「…死体、も」

通常よりゆっくりと行われていた武藤の話を、ただ黙って聞いていた鍾鬼が口を開いた。
漏らされたその単語に、武藤は思い立ったように重い息を吐く。


「…遺体はもう、国が処理した。人間が可能な範囲で」

ならば、どこかしらに埋まったまま火葬されなかった者もいるのだろう。
現場はなにもかも破壊され尽くし、それこそ人も建物も、原型をとどめてなどいなかった。

(橘だけじゃなく、甘ったれたアダム候補生にはいい薬かな)

箱舟という厚い壁の中で、ただ生温い空気に漂う無能で無様なアダム達。

(…セクションも、これからが本番になる)

アダム箱舟連盟にしてみれば、貧困エリアにて起きた大惨事は軟弱なアダム達を鍛えるいい機会になっただろう。

(歪みきったアダム社会を一掃する、いい時期だ…)

だからこそ、まだまだ他国の学生を受け入れる余裕のない日本が中国の申し出を受けたのだ。
雲雀の視線に気付いたのか、武藤と会話していた鍾鬼がこちらを振り向く。

「雲雀、なにか」

その凛とした視線はアダムとしての誇りに満ちている。

───人類の亜種、想像を越えた神の力を、偶発的に手に入れた者達。


「…なんでもないよ」

それは誤魔化しでもなんでもなく、誤魔化しに間違いなかった。


『雲雀』

瞼の裏に緩やかに蘇るバカな笑い声を、酷く厭う。

(あの醜い体も魂も、仮初めの神を崇拝した、従者の業)

そして、その仮初めの神とは自分であり、その生贄は倫子だ。


(…下らない)

この湧き上がる罪悪に似た不信感も、あれを憐れむ、この醜い精神も。



―――裁かれるべきは、誰だ。






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