AEVE ENDING
―――カシャン。
「……」
先程まで自分の指に引っかかっていたティーカップが、軽い音を立て足元に広がった。
細々とした無惨な欠片が、雲雀の視線を集める。
「雲雀、どうした」
その音を聞きつけ、リビングから顔を出した鍾鬼が、キッチンのシンクから一歩離れた雲雀の足元に転がる高級そうなカップに目を丸くする。
「…珍しい。雲雀が、粗相を」
煩い、と。
いつもなら口にするだろうに、今の雲雀はそれどころではなかった。
無残に割れたティーカップから目を逸らし、そのまま視線を上げる。
「…雲雀?」
ゆっくりとあらぬ方へ視線を巡らし、こちらを不審そうに見やる鍾鬼を通過して、そのままテラスへと向かった。
らしくない雲雀の様子に、鍾鬼は不思議そうに首を傾げた。
足音もなくテラスへと向かう雲雀はどこか威圧的で、声が掛けられない。
(───神と呼ばれる者同士であっても、ここまで差が出るのか)
日本に来てまだ一月と経たないというのに、この男の得体の知れない正体に敬服しかけている。
別格だった。
母国のアダム達とも、日本のアダム達とも、そして神と謳われた自分とも。
なにかを探るようにテラスに立つ姿は、黎明で鮮明。
まるでその存在だけが、この世界では異質であるかのように。
長い睫毛を瞬かせ、二つ名の修羅はなにか、別のものを見つめている。
「……橘?」
その紡がない唇が、唯一、紡いだ音。
(タチバナ?)
そうしてすぐさまこちらを向くと、先程とはだいぶいつも通りになった表情で、雲雀は鍾鬼に言い放った。
「…向こうでは、力の抑え方を習わなかったの」
唐突に飛び出た言葉に、鍾鬼は再び目を丸くする。
いきなり、なにを。
目の前のパートナーがなにを考えているのか解らない。