AEVE ENDING
―――キラキラしてる。
おかしいな、真っ暗だった筈なのに。
(雲雀の匂いが、する)
宿舎の一番端。
場所は認知していたが、鍾鬼とパートナーを組んでから足を踏み入れたのは初めてだった。
カチリ。
かたく閉じられていた扉の錠を難なく開ける。
雲雀を前に、施錠など無駄な抵抗だった。
「……」
ノブを捻り隙間を作れば、酷い異臭が鼻をついた。
体液と、血液が混じったもの。
「、」
一瞬、ぞっと背筋を這い上がるものが在る。
脳裏を掠める、生気のない倫子の顔。
(まさか、…恐怖なんて)
有り得ない。
───生き物の死など、それこそ厭きるほど、目にしてきた。
それなのに。
ゾワリ、と首筋に鳥肌が粟立った。
それは恐怖なのか悦びなのか、雲雀には判断がつかない。
―――狭苦しい部屋だった。
まるで監獄のように、倫子を押し込めて離さない。
遮光カーテンが閉められているのか、室内の奥は夜のように暗い。
ただでさえ重い雲が立ちこめる世界だ。
遮れば、まるで闇のように暗く濡れてしまう。
タイルの床には、シーツや衣服、ぐちゃぐちゃに割れたカップに、ボトルから零れた水溜まり、腐りかけた林檎。
まるで廃墟に足を踏み入れたような気分になった。
立ち込める熱気と血臭、それから、生き物の濃い匂い。
(…気分が悪い)
肺に入り込んだ悪質な空気を排出しようと息を吐く。
空気の層が汚染されて、その汚れた粒が目に見えてしまうような。
(…なんで、僕が)
考えて、やめた。
この場に立っている時点でそれを追求するのは愚かだ。
更に自分を墓穴に陥れる必要はない。
室内の中央に置かれたベッドに近寄る。
革靴の裏が、脱ぎ捨てられた衣服のみならず下着まで踏みつけた―──自然、その白い布の正体に眉が寄る。
盛り上がってよれたシーツを見下ろせば、赤い斑点が目を焼いた。
(…血を、吐いたの)
或いは腕の傷が開いたのか。
いや、量的には吐血だろう。
シーツの塊は緩く上下し、呼吸しているのは解る。
―――わかる、が。
「…橘?」
思わず、声に出していた。
指を伸ばし、シーツの塊に触れる。