AEVE ENDING






痛んだ髪の端だけがシーツの隙間から覗き、布の闇に引き込まれるように続く血痕がまるで地獄への誘いのようだ。
軽く指を引っ掛ければ、薄い粗末なシーツは簡単にずれ落ちる。


「……」

丸く縮こまった、真っ裸の倫子が姿を現した。

自分の肩を抱き込むように眠るその姿は、まるで外界の驚異に脅える小動物のように憐れで、脆弱。

「…、」

名を呼ぼうとしたが、気付けば随分と舌根が乾いていた。

唾液と血液が混濁した痕が視界に入る。

荒れてかさついたた唇と、涙で不揃いに跳ねた短い睫毛。
剥き出しの肌を縫うように走る施術痕と、血が滲む右腕からは包帯が解けかけ、茶色に変色していた。

傷を掻き毟ったのか、肩に回る爪先には血と皮がこびり付いている。



―――酷く、胸が焦げた。


シーツを取り払われ、室内の隠る温度に曝され粟立つ肌に無遠慮に触れる。
じっとりと汗ばんだような、けれど乾燥しきったような粗雑な肌が、雲雀の指先を力なく弾いた。

遮光カーテンの隙間から漏れた外の光がその顔を照らし、儚く見せている。

本来より、ずっと。

―――だから、だ。




(だから、)

その傷付いた体が、あまりにも悲惨で。

(だから…)

憐れみに、浮かぶ波に息が詰まりそうに、なった。

美化された世界はまるでこの傷付いた生き物を否定するかのように。


(…ここにいなければ、)


世界は、優しかったであろうに。








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