AEVE ENDING







…また、キラキラしてる。


(おかしいな、)

光の届かない、暗闇にいた筈なのに。

薄い瞼越し、痛いくらい光が溢れていた。

それに。


(あったかい…)

体が暖かい。
足先から、細胞の隙間から、芯から、熱が滲んでゆく。

(あれ、)

痛くない。

暖かい。

(―――雲雀の、)




「…ぅ、」

浴室に響いた間抜けな声に顔を上げた。
自分の足の間に入れ込み、浴槽のなかに落とし込んだ小さな体が、震える。

(やっと目を覚ました…)

熱湯を溜めた浴槽に、芋虫になって固まっていた倫子を放り込んで三十分強。
つらつらと眠ったまま起きなかった彼女の、ベッドに寝かせていた時より安らいだ寝顔に息を吐いた。

(…らしくなくて、気持ち悪い)

自分が、まるで。



「ぃ、っ」

自分の内股に傾けていた湿気た頭が、ずるりと上がる。
周りを取り囲む白いタイル、白いバスタブ、白い天井、淡い照明に驚いたらしい。

「ふろ…?」

状況を把握しきれていない滑舌の悪い顔は見慣れたもの。
その間抜けな視線が、横にある裾を捲られた足を伝い、持ち主の顔に行き着く。

バスタブの端に腰掛け、足首から膝まで湯に漬ける、雲雀の姿に。


「…、」

汚れを綺麗に洗い落とした清潔な顔が、硬直した。

「起きたの」

わかっていながら、気付け代わりに発せば。


「…ひばり、」

くしゃりと歪んだ眼に、ひと突きされた。

(なに、その顔…)

濡れた瞳孔にゆらゆらと誘われて、伸ばされた腕を、取る。

「…、」

雲雀だ。

唇だけがそう動いて、倫子は裸のまま―――恐らく気付いていない――雲雀の腰に抱きついてきた。
シャツ越しに濡れた皮膚が感じられ、その不快感に眉が寄る。

離れて、と口を開きかけて。


「…っぅえ、」

真下から漏れた情けない嗚咽に、思わず噤んだ。

剥き出しの肩が震え、そこここに淡く浮き上がる継ぎ接ぎの線が、この眼には情欲的に映るのだから自分の悪食ぶりに嗤える。






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