AEVE ENDING
「っ、…、」
びくつく体をバスタブの端に抑えつけて、ひたすら夢中で貪った。
天井から伝う水滴が倫子に覆い被さる雲雀の肩を叩いてゆく。
意識に靄がかかり、時間軸がはっきりしない。
長時間、風呂場にいたせいだろうか。
「ぅ、あ」
首に回された傷だらけの腕に目眩がする。
身勝手な睦みあいは、終わりに近づいていた。
「…、む、むり」
その言葉が、最期。
名残惜しく、代わりに剥き出しの乳房に噛みついた。
耳に心地良い悲鳴も、歯茎に残る安く引きちぎれそうな底抜けの柔らかみも、全てが満ちる。
キラキラしてる。
まるで光の構造のなかに、生きているように。
「…湯冷めした」
顔のみならず全身を真っ赤にした倫子が、開口一番口にしたのがそれだ。
結局、道連れで濡れそぼった雲雀は、真醍が置いていった薄い着流しを一枚羽織っている状態である。
「そんな赤い顔して、なに言ってるの」
壁により掛かる雲雀の言葉に、倫子は不愉快そうに顔を歪める。
「…これには、別に、理由が」
ごにょごにょと反論する倫子を嘲笑うかのように口角を釣り上げ、雲雀は彼女を見下した。
「…なに、その顔」
それに気付いた倫子が果敢にも下から睨みつけるが、雲雀はそれをものともしない。
「別の理由って?」
問えば、バカみたいに赤くなるから。
(ほんと、馬鹿…)
噛まれた胸の膨らみを、着替えた服の上から庇うように後退る倫子に、雲雀がにたりとその唇を歪める。
「歯形でも付いてるんじゃない。薬でも塗ってあげようか」
「い、ぎっ」
ゴン!
真っ赤になった後頭部を、追い詰められた窓に自ら打ちつける。
可笑しいったらない。
「馬鹿に塗る薬はないね」
「変態に言われたくない」
「相変わらず生意気」
「…いたい!なにこれ!久々に懐かしい暴力!」
「懐かしがって頂けて光栄だよ」
「いっ、だ、だだだっ!」
(…懐かしい、)
それは、僕もだ。
耳に馴染む憐れな悲鳴も、痛みに触れる感触も、真っ直ぐな眼も。
(僕と対等であるのは、)
その噛み痕の下に埋まる自身の断片に、反応する。
(―――憐れな、)
僕の片割れ。