AEVE ENDING
雲雀が、呼吸する。
サイズの合わない和服を羽織った姿で、汚れたベッドに腰掛けている。
雲雀が、同じ空間に、いる。
私が吐いた二酸化炭素が空気に融けて、それを、雲雀が吸い込む。
(雲雀が、いるんだ)
心臓が落ち着かない。
先程の熱も、淡い感触も、酷く鮮明なまま、この胎内を陵辱している。
「…なに」
雲雀の視線が、倫子へと流れ込む。
胸中から沸騰してしまうような、その光源。
「…なにが」
喉が嗄れてる。
情けない。
雲雀の真っ直ぐな視線が、倫子を捕まえたまま動かない。
「なに、見てるの」
見て、ない。
―――見るな。
「…きなよ」
真っ白な指が倫子を招く。あまりの白さに、幻みたいに見えた。
(幻、なのかな)
魂を剥き出しにされたような痛みが見せる、淡い夢。
「…夢じゃない」
噛み痕が、痛むでしょう。
表情が乏しいその顔の、ほんの少しの変化を窺えるようになったのはいつからだろうか。
吸い寄せられるのは、きっと、同じものだから。
「…痛みは、」
なんでもお見通しなの。
腰掛けて開いた脚の間に私を滑り込ませて、甘やかすように、両腕を捕らえて。
「痛くない」
「…そう」
ねぇ、どうして、なんでそんな。
「どうして、解ったの…」
ねぇ、どうして、そんな優しい眼をするの。
(終わった筈なのに、)
私達は。
始まってもいない筈だった。
「…だって、」
その柔らかな唇は、なにを紡ぐだろう。
毒を、優しさを、或いは殺意を。
「呼んだでしょう」
爛れるような、甘さを。
「橘が、僕を呼んだんだ」
だから来たのだと、雲雀は嗤う。
ねぇ、その言葉は、私を貶めるものだろうか。
それとも。
「…留学生は?」
ねぇ、えらんだものはなに?
「先に行かせた。ちゃんと力を抑えさせてね」
雲雀の指が、倫子の腫れた肌を愛でていく。
───否。
壊したいんだ、この男は。
私、を。