AEVE ENDING




「…困るなら、構わなきゃいいじゃん」

私にそれを告げてどうするのさ。
俯いた先には、薄汚れたスニーカーの先っちょ。


(…惨めだ。とても)

惨め。

強者に触れられもせず、呻き、憐れまれ、助け出されて、救われて縋って突き放されてまた、仰ぎ見て。



「…君を殺すのは、僕だよ」

その声もその言葉も、私だけのもの。


(―――何故、愛しい)


そこには私の傷みしかないのに。
そこには、私の全てがあるのに。




「……雲雀」

泣きそうな声が出た。
馬鹿馬鹿しいまでに、誰が聞いても、泣きそうな。

「…なに」

応えなくていい。
応えなくていいんだよ、バカ。


「誓え」
「…なにを」
「今の」
「…なに?」


(―――必ず)




「…あんたが、私を殺して」

戻る前に。

あの醜い姿で、朽ちてしまう前に。
あの憐れな姿で、あんたを汚す前に。


「言うようになったね」

嘲笑が漏れた。
耳朶を掠める、甘く情けに満ちた、約束。


「この短期間で、誰かさんに似たのかも」

(そうだ、あんたの手で)


それを、最期にするから。
それを最期に、あんたの手は、もう汚させないから。


―――だから。









真上から見下ろす肩は、震えていた。

(…震えながら、僕に懇願する)

その価値のない命を僕に委ねて、そして。

───なにを恐れる。



「精々、足掻きなよ」

そうすれば、僕は君に戻るよ。

生きて見せて。
泥にまみれて、世の灰汁を啜り、血と罵声にまみれて、侮蔑を背負って、僕の前に、跪いて。

あぁ、そんなの待たずに。

今すぐ。


(滅茶苦茶にしたい)


その四肢を括りつけて自由を奪い、口もきけなくして古傷をなぶって開いて、その皮膚を舐めて噛み契って、それから。

―――だめだ。


(口をきけなくしたら、悲鳴が聞けない)

なら、口の中に指でも突っ込んでやろう。



「…愉しみにしとく」


早く、鳴かせたい。




「時間、かかるよ」
「待つよ」
「…ちょっと、その殺意込めた微笑やめてくれない。キモスギ」
「今すぐ、でもいいけど」「…キモイ」
「……」


い、てえええ!よ!バカ!このバカ!




(あぁ、この関係、なんて、生温い)







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