AEVE ENDING
「…、」
視線を流す。
母国より幾分か暖かい風が皮膚に触れ、鍾鬼は目を細めた。
視線の先に映る見目麗しい少年と、平凡な少女。
話は聞こえないが、雑談をしているらしい。
(…雲雀が、笑っている)
一体、どんな話をしてるのか。
··
───あの雲雀と。
少女の少し赤茶けた暗い髪が靡く。
同様に雲雀の濡れ羽色の髪も。
雲雀の髪に少女の指が伸びて、絡んだ髪をゆっくりと解く。
それを、雲雀が甘受する。
まるで別人を目にしているようだった。
少なくとも、鍾鬼が知る「雲雀」という男は、他人に体を触らせることを酷く嫌うタイプの人間だ。
高尚であるが故に、他人にテリトリーを荒らされることを厭う。
その男が、少女に笑む。
少女はなにかしら喚くように叫ぶが、雲雀はやはりそれを笑んだまま受け入れている。
雲雀の指が少女の首に触れ、撫で、思いの外、優しく、絞めた。
まるで、愛おしむように。
凶暴な愛撫を、施すように。
『橘』
非常に、興味深い。
気高い神に、赦された女。
(タチバナ)
自然、口角が釣り上がる。
それは微笑むふたりを眺めたせいでは、決してなく。
「ハッ…」
自分でも、酷く慇懃な笑みを浮かべていることが解ってしまった。
雲雀が、嗤っている。
目の前に立つ少女を、まるで自分のものだと誇示するように。
「ハハッ」
───遠い異国の地で、なんて面白いものを見つけてしまったのか。