AEVE ENDING
―――この渇いた地に立つのは、何度目だろうか。
遠ざかる雲雀の背中を眺めながら、倫子はぼんやりと考えていた。
見上げれば、鬱蒼を体現するような暗い雲が足早に空を駆けている。
この土地が双子と蛇に侵略されてまだ一月しか経っていない。
(…それなのに、あの子の顔はもう朧気だ)
この役立たずな膝の上で、半身を押し潰された痛みに痙攣していた、まだ幼い女の子の、顔。
泣きじゃくっていたのは、私だった。
だから、顔を思い出せないのだろうか。
(薄情な生き物だな、私は)
既に人間でもアダムでもない私は、神から見ればさぞ罪深い生き物なのだろう。
彼、或いは彼女は、その高潔なる意志でなにを思うのか。
(罰を下せと、嗤うのか)
『…壊してあげる』
けれど。
(罰せられる謂われはない)
少なくとも、地上に立つ神と呼ばれる男とは、約束した。
この体は、あの男に引き裂かれる為に造られたのだ。
(このまま何事もなく、安寧の真似事が続けばいい)
それは安寧とはほど遠い願いだと知っている。
そうだ例え疑似であろうと、最期までそれが私を騙し続けてくれるなら。
(…恍惚のまま、死にたい)
助けて。
そのたおやかな指で、残酷に花の茎を折ってしまうように。
(この醜い体を、)
―――壊して、雲雀。