AEVE ENDING







「神が二体、この国に降り立っているとか」

牙を剥いた蛇が嗤う。
暗く淡い室内の壁紙に溶け込むように、蛇は身を潜めていた。

外気は冷えるが、この部屋に暖房はない。
外気の冷たさとはあまりにかけ離れた冷気が、部屋に充満していた。

蛇の正面――─部屋の奥に座す男の顔は、分厚いカーテンに邪魔されて見えない。

見える必要もなかった。




「…破壊神と守護神だろう」

蛇につられて、顔のない男が嗤う。
それは、大気を振るわせるように響くさざ波だった。


「随分と、対照的だ」

男が手にする人形の、上下に分かれた口がカタカタと鳴いた。
その音が好ましいと、男は孕むような笑みを浮かべ。


「…時間が惜しいのでは?」

蛇が、問う。
彼の主である男は、その問いに唇を歪めた。


「時を急くなど、人のすることだ。我々は待てばいい」

───ただ、待てば。



「…種は、芽吹きましたか」

蛇がその睫毛のない瞼を閉じる。
口許では緩く弧を描きながら、際限もなく。


「もうすぐだ…」

そう、もはや急く必要などない。

蒔いた種は、もうすぐ、芽吹く。

その芽は茎と化し茨を捧げ鎖と化して、憐れな贄の羊を繋ぐのだ。


(私の手に)






< 527 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop