AEVE ENDING
貧困エリアにて発見された八体の遺体を目にしたアダム候補生達は、各々の意志を以て現場を後にした。
腐敗の激しかった遺体は、免疫のない生徒達に罪悪感と嘔吐感、そして贖罪を植え付けた。
住人を失った土地は、ただ渇いた風が吹き抜けるだけ。
彼らが何者かの手によって消されたのをいいことに、政府は湧いた泉を整備し、それをネタに高層の人間達から高い使用料をふんだくっている。
機械に封された、以前は豊潤を露わにしていた泉を目下に、倫子は眉を寄せていた。
味気ない、人間の芥。
「こんなつもりで、…頑張ったんじゃなかったのに」
役立てて欲しかったのは、都に住む人間達ではなかった。
「…、」
(彼らじゃなかったのに)
人間達は皆───アダムだってそうだ。
傲慢を形にした、欲深さが露わな、生き物。
「…きたないや」
かつて人間だった倫子も、今はアダムである倫子も、或いは醜さの象徴であったのか。
(この体の中身を見たときから、私は罪深い生き物だと教え込まれた)
───自分自身に。
「…タチバナ」
不意に、呼ばれた。
背後から、足音も気配もなく。
(…砂浜なのに)
雲雀の声ではない。
けれど雲雀に似た、気配。
けれど雲雀とは、似ても似つかない。
───同質であり、異質。
「…タチバナ?」
振り向けば見目麗しい留学生の姿があった。
(神の名を持つ者は、姿まで恵まれるのかね)
馬鹿なことを考えながら、倫子はちゃらけて首を傾げて見せた。
「なにか用?ショーキくん」
考えつく限り、彼が倫子に声をかけてくる必要性はゼロだ。
雲雀との先程のやりとりがなければ。
「…ショーキ、違う。鍾鬼。呼び捨てで、いい」
この馬鹿馬鹿しいカタコトが本当に笑える。
「…鍾鬼、なにか用?」
黒い長髪が潮風に靡く。
渇いた潮になぶられた美しいそれは、四季の憐れにも見えた。
その薄い唇が、隙間を開ける。
「───大した用は、ない」
(…けど、)
「でも、声は掛けたい?」
馬鹿にしたように首を竦めて見せれば、鍾鬼はつ、と歩みを進めた。
大陸の伝統衣装か。
美しい金糸の巻かれた白い靴が砂を裂く。