AEVE ENDING
「…興味が、」
ざり。
彼には似合わない音だ。
(足音なんて消せるくせに)
わざと。
「興味?私じゃなくて、雲雀にでしょ」
ざりざり。
醜い音。
私を追い詰める。
「……あなたに、」
―――笑わせないでよ。
「嘘は、嫌いだよ」
神は、神に惹かれるものだ。
紛い物には、目もくれない。
興味すら、抱かない。
―――ざり。
鍾鬼の爪先が、まるで矛のように倫子へと詰め寄ってくる。
(…近付くなよ)
ざり。
あんたのその漂白されたような気配は、それだけで酷く不愉快なのに。
「マガイモノ?」
鍾鬼の目が煌めく。
きょとりと、瞬いて。
(…くそ、流れた)
相変わらず筒抜けになる自分の頭が憎らしい。
よりによって、倫子から居場所を取り上げた男に。
「…タチバナ、頭の中、丸見え」
うるせーよ、馬鹿。
なにが丸見えだ。パンツじゃねーぞ。
そう抵抗を見せたいが、この男相手に下手に口を滑らすと危険だと、倫子の勘が喚いていた。
(カタコトだから間抜けに見えるけど、頭が切れないわけじゃない)
なにせ、こいつは母国じゃ殺人罪を犯している。
(神経ブチぎれた相手に隙は見せられない)
この男を前にすると、雲雀は秩序ある狂気なのだと実感させられるのだ。
「紛い物、欠陥品…そういう意味?」
ざり。
白が砂を掃いてゆく。
近付くな。
追われるように後退れば、踵が泉を塞ぐ鋼鉄の蓋へと当たった。
「紛い物…出来損ない、雲雀の、偽物?」
―――ゾッ。
その言葉に、心揺るがされるようになったのは、いつからだろう。
「…雲雀は、関係ない。私は、ただの私でしかないのに」
強く言い放つつもりだった言葉は、微かに震えた。
(―――この男)
的確に、真実を突いてくる。
今、初めて、言葉を交わしたのに。
その狂気に近い眼で、捕らえようとする。
(…生きたまま、屈辱を)