AEVE ENDING
───あぁ、なんの偏見もないといえば、雲雀のパートナーを解任されてからの相棒は。
(真醍の馬鹿はなんと産休中だ。いや、真醍が出産するんじゃなくて、やつの嫁さんが)
正直、猿が既婚者だったことに驚いたが、北の島から掛かってきた喜びを露わにした電話に、こちらも両手を上げて祝わずにはいられなかった。
(雲雀に報告した時の、あの顔ったらないな)
真醍が父親になることより、結婚していたという事実に驚愕したらしい。
今まで見たこともない間抜け面を拝見させて頂いた。
思い出して、口元には自然と笑みが浮かぶ。
(…成長したのは、私だけじゃないか)
それは喜ばしいことなのか。
嘆くべきことなのか。
(───怨むべき相手が、好ましくなってゆく)
神に嗤われているのかもしれない、と。
(雲雀を憎むのはお門違いだと、嗤われて…)
「タチバナ」
気配もなく、背後から掛けられた声に脱力する。
それと同時に、陰気臭いババアが乱暴に味噌汁をトレイに乗せた。
「…なに」
メニューの揃ったトレイを手に振り向けば、ここ二週間で随分と見慣れた留学生の姿がある。
美貌の鍾鬼が、小さく笑う。
「ご飯、この時間だと思う」
カタコトは相変わらず。
はじめ慣れないうちは笑ってばかりだったが、ここ最近はまともに教えてやらねばという親心まで芽生えてきた。
「…思う、違う。この時間だと、思って」
つられて倫子までカタコトだ。
「…ご飯、この時間だと、思って」
流暢とは言い難いが、一応きちんと言い直された日本語に、倫子は満足げに口角を釣り上げた。
この二週間、何故か日本語の先生が板に付いた橘倫子です、改めまして、皆様こんにちは。
「あんたも今から食べるの?」
「…そう、一緒、食べる?」
「いーよ。待ってるから早く頼めば」
倫子の言葉に鍾鬼が笑う。
その微かな笑顔に脱力してしまうのだから、あぁ、私も甘いな、本当に。
酢豚と中華スープを注文している鍾鬼の横顔に、自嘲の溜息を吐いた。