AEVE ENDING
「…寂しい?」
それでも母国で、あるがために。
「…どうだろうか、」
落とされた科白。
問うた倫子をか、それとも己をか、なにかを嗤うように、鍾鬼の唇は歪む。
その横顔は、誰かに似ていた。
「……」
「……」
「…ねぇ」
「なんだ?」
「酢豚、喰わせて」
隣で湯気を立てる酢豚に箸を突き刺す。
唐突に延びてきた不躾な腕に目を丸くした鍾鬼が、ちょっとだけ間抜けに見えた。
「…行儀、悪い」
倫子の口に酢豚のピーマンが飲み込まれてから、はっとした鍾鬼が眉を寄せる。
ほんと、誰かさんにそっくりだ。
「今更」
「イマサラ?」
「…難しくて説明できない。雲雀に聞いてよ」
「タチバナは、馬鹿なのか」
「黙れ片言」
「差別発言」
「…誰だ、お前にそんな日本語教えたの」
こうして笑い合っていられるのは、何故だろう。
心地良く胸を焦がすのはきっと、同質に寄せる憐れみだ。
(雲雀が見たら、きっと馬鹿にするな)
中途半端な者同士が馴れ合って、けれど傷は晒せず、慰み合う。
(───それでも、同じにはなれないのに)
解っていながら甘える私は今、逃げている。
「タチバナ、」
『橘』
「タチバナ…」
『橘』
この声に乗せて、あの男を見ている。
『―――橘…』
幻聴のさなか、それは例え幻であってもこの胸を焦がすのに。
早く私を殺してよ。
早く。
はやく。
『橘』
その名を絶望に呼ばれながら、殺されたい。