AEVE ENDING







ゆっくり、意識して瞼を開閉する。

鍾鬼と生活を共にするようになってから更に浅くなった眠りから覚めて、無駄に増した疲労感で頭が痛む。

枕に埋めた首を横に向ければ、夕焼けとも呼べない空が広がっていた。

(雨…、雷雨だ)

眠る以前より近付いてきている厚く広い雲に思わず溜め息が出る。
この国の天候は変化がない代わりに、一度雲が流れてくるとそれが長引く。

(…頭が痛い)

この頭を悩ませる原因をあげれば、崩れそうな天候も含まれはするが、一番はそれじゃなかった。


『ねぇ見た?橘倫子と留学生』
『あぁ、何様のつもりだ、橘のやつ』
『雲雀様の次は留学生ってわけ?どこまで節操ないの、イヴのくせに』
『…そろそろ、目障りだよね』

視界を埋める真っ白な天井に、最近よく耳にする噂が目まぐるしく駆け巡っていた。

橘倫子と、留学生。

馬鹿馬鹿しいことに、ここ最近の西部箱舟での倫子の陰口はそれに尽きた。

気に入らないのは、どちらに対してか。

人に対して興味を示さない自身から出た錆びではある。
パートナーにろくに構って貰えない故に、鍾鬼は倫子へと方向転換したのだ。

そして、一番気に入らないのは。


(───橘に、惹かれた)

あの男が。
大陸から来た、神と呼ばれる男が。

『雲雀』

そしてそれを甘受する倫子自身も。

『雲雀』

未だ耳に残る、あの声が駆り立てるのは。


『───橘倫子に、解らせてやろうよ』
『雲雀様を二の次にするなんて赦せないんだから』

修羅である雲雀をないがしろにした、といきり立っている勘違いばかりが彷徨している。

全てが、煩わしい。



───こうして、他人に惑わされるなど、以前の自分では考えられなかったことなのに。

氾濫を知らなかった胸を乱すのは、それはまるで。




『……、ひばり』


突き動かす者。

恋い焦がれる声を、聞いた気がした。







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