AEVE ENDING
傷は未だに疼くまま、それでも私は生きている。
「冗談じゃない」
ざわめくどころか水を打ったような沈黙のなか、そう発したのは渦中の人物である雲雀だった。
誰もが予想だにしなかった采配に目を丸くし、ざわめきを通り越して、絶句の海が広がる。
アダム一の落ちこぼれと、史上最年少の「神」。
バランスが悪い悪くないの問題ではない。
ペアとしてひとくくりにすること自体、浅はかで無謀だ。
「…冗談じゃないって言われても、冗談じゃないんだなー、これが」
雲雀の呟きに、奥田がにやりと笑みを返した。
倫子は未だ頭の中で奥田の言葉を反芻しながら、もしそうなれば自分がどうなるかまでシミュレーションしている。
(…能力差じゃ明らかに勝ち目なし。絶対服従、家畜扱い、更に激化する周囲からの虐め。特に女子からの陰湿な嫌がらせ。…ええと、それから)
倫子は恐る恐る顔を上げ、自分と同じく未だホールに残っていた朝比奈雛を見た。
般若の如く怒りを露わにした女の姿はまさしく、修羅だ。
雲雀より怖くね?
(身の破滅…)
この唯我独尊、尚且つ無慈悲な男とペアになっても、倫子には一片のプラスもない。
プラスどころかマイナスにマイナスで(プラスになるけど)我が身には何も残らない。
「…無理」
倫子は導いた結果をそのまま口にして、朝比奈から目を逸らすと再び雲雀を睨みつけた。
「こんな男と四六時中一緒に居なきゃならないとか、アホか!無理!地獄!」
半泣きで主張する。
これにはホールに残っている生徒全員からブーイングが巻き起こされた。
「ふざけるな!お前とペアを組まされる雲雀様の身にもなってみろ!」
「あなたが雲雀様のパートナーを勤め上げられるわけないでしょう?」
「雲雀様が気の毒だ!」
「そんな低脳とパートナーを組まされる雲雀様の身にもなってみろ!」
「アダムの穀潰しめ!」
ホールに響く一斉の誹謗中傷。
眉間に皺を寄せる雲雀と、泣き面に怒気を含む倫子。
―――だ、れが。
「穀潰しだコラァ!」
「ちょ、ミチコ落ち着いて、ちょっと!」
一斉放火を開始した生徒達のなかに殴り込もうとする倫子を、羽交い締めで止める奥田の姿がなんとも滑稽だ。