AEVE ENDING
「…つまらない反応だ」
期待外れの反応に、鍾鬼は酷く退屈だと口を歪めた。
倫子の肩を抱く腕に、八つ当たり気味に力がこもる。
「闇組織からの客が、まさか君とはね…」
溜め息と共に吐き出されたそれに、鍾鬼は満足そうに肩を揺らして痙笑した。
「…気付いていたか。いつからだ?」
愉しげに喉を鳴らす、男。
「さぁ…、いつだったかな」
雲雀の声が木霊する。
微動だにしない痩身の陰影は、まるで雲雀の心のうちを表すように繊細で、清く深い。
「―――それで、君は橘を連れて行く気?」
雲雀の眼が拘束されている倫子を捉える。
それだけで湧き上がる安心感とやらは、倫子の甘さに違いない。
(雲雀に、心を赦すな、)
過去が警鐘を鳴らしている。
それは過ちと違わぬ愚かな行為だ。
(───雲雀に、懇願しようというのか)
この哀れな身を救って欲しいと、ひれ伏して請うのか。
(───浅ましい、)
指先一つまともに動かせない状態で、それでも現れた一筋の希望とやらに縋ろうとする。
(…もう、惨めな思いはしたくないのに)
けれど死にたくも、ないのだ。
「…連れて行くの?」
もう一度繰り返された問い掛けに、鍾鬼がくつりと喉を鳴らす。
「人聞きが悪い。誘拐なんて悪趣味な真似、しない」
いけしゃあしゃあとよく言う。
今まさに、誘拐紛いの現場ではないか。
しかし今の倫子には、その言葉に反論する力もなかった。
(なに考えてやがる、こいつ…)
鍾鬼の言葉の意図するところがわからないらしい。
雲雀の眉が不愉快そうに顰められ、思考を巡らせているのがわかる。
「…それ、どういう意味?」
「天地全能なる修羅でも解らないか?」
皮肉のつもりか、随分と鼻につく声で鍾鬼は続けた。
けれど雲雀の表情が歪むことはない―――深淵の湖が、皮肉如きで波立つわけもなかった。
「まぁ、何故こんな役立たずを連れ去る必要があるのか、お前にはわかるまい」
鍾鬼が倫子を抱き寄せる。
話しながら近付いた唇に、不快を禁じ得ない。