AEVE ENDING
根も葉もない虚言だと言えたら。
けれどそれらは、確かに倫子の根底にくすぶっていたものだ。
「好きでアダムとして覚醒したわけでもないのに、故郷を離れ、ここ箱舟に収容されてからはその低い能力値ゆえ周りから蔑まれ、いたぶられ、隔離され、パートナーである君には暴行をくわえられ、カリスマである君の隣に立つことによる周囲からの羨望の眼差し、嫉妬、逆恨み、悪化する周囲の認識」
(───私はなにひとつ悪くないのに)
辛く虚しい思いばかりしてきた。
理不尽な思いもそれこそ、思い出したくもないほどに。
「だからもう、こんな場所にはいたくないと、言う」
(私を歪めるもの)
雲雀は依然、黙ったままだった。
(…声を、聞きたいのに)
「君のように優秀な、生粋のアダムには解らないだろう」
(私の痛みなんて、きっと)
事実を知れば貴方はどうするだろう。
憐れみ、同情し、肩を抱くのか。
或いは、穢らわしいと他と同じように切り棄てるのか。
(…どちらにせよ、私は惨めだな)
ならばいっそ、鍾鬼が言うように反旗を翻してしまおうか。
(雲雀と敵対すれば、この感情に苛まれることなく、殺し合える)
多少の馴れ合いを経た今の関係より、ずっと。
『…馬鹿だね、橘』
『みんなそうだよ。人間もアダムも、みんな、汚い』
耳につく、雲雀の声。
「橘は、我々と来る」
鍾鬼の声が聴覚にフィルターを掛けたようにぼやけていた。
(なにをのぞんでいるのか、もう)
『殺してあげるよ』
自分でも、解らない。
『僕の手で』
(───でも、)
私は、それでも。
鍾鬼は息を詰めて待っていた。
雲雀の反応を、応答を。
『―――橘を殺すのは、僕だ』
それでも。
(…そばにいたい、)
涙が滲んでくる。
まるで茶番だ。
ひとり遊ばれて落とされて揺り動かされ、痛みに、肩を抱いて。
(だって、)
離れたく、ない。
このまっさらな生き物の隣で、影になったっていい。
憎むべき相手だということもわかっている。
(でも、それでも)