AEVE ENDING






眼球に染みる熱が、視界を埋めてゆく。
うっすらと膜を張る世界には、薄ぼけた雲雀しかいない。


(雲雀と、一緒がいい)


だって、そうじゃなきゃ。





「―――だめだよ。橘を殺すのは、僕だから」


ほら、そしてまた、その声に落とされてゆく。


「…神が虫螻を手放すのを躊躇ってどうする?」

雲雀の返答は鍾鬼にとって予想だにしないものだったらしい。
強ばった身体と表情を、倫子は間近でぼんやりと見つめていた。

(当然か、)

雲雀が私を、傍に置く意味。
あるかないかも解らない、理由すらない、下らない支配欲。


「躊躇じゃない。はっきり拒否してるんだけど」

躊躇いがちの鍾鬼の言葉に、やはり雲雀は揺るがないまま。
腕を組み、半壊した壁に凭れるように立つ玲瓏な男は、なにものにも屈しない。

「理解できない。お前の身から出た錆をこちらで処分してやろうと言うのに」

退く気は毛頭ない、という気配を感じ取ったらしい。
鍾鬼は溜め息混じりにそう吐き出すと、倫子を抱いたまま、瓦礫の山を二、三移動した。

痛む体が、ぎしりと軋む。


「僕に楯突く愚か者を、僕自身の手で破壊するのが好きなんだ」

どんだけ物騒な趣味だよ。

どちらにせよ、倫子はただじゃ済まないらしい。
嫌気がさすこの被害者体質に、倫子はふたりに気取られないようにうなだれた。

そんな倫子を、抱きかかえていた鍾鬼が動く。
息吐く暇もなく、倫子の身体は俵のように彼の肩に担ぎ上げられてしまった。

(……ちょっと待て)

この場に居る男ふたりが無反応ゆえ忘れられていたが、倫子は裸だ。

ぐちゃぐちゃに傷が付いた体は、糸屑ひとつ纏わない真っ裸。

その状態で男に肩担ぎときた。
大変、宜しくない景観である。


(…勘弁しろよ)

しかし倫子の主張など聞いてもらえるわけもなく、大変失礼な男達は年若い裸体の女性をまるで置物のように無視したまま、無言の睨み合いを続けていた。

(…ほんとに失礼だな)

倫子がこんなことを考えているとは露にも思っていないだろう。

(…思っていたとしても、気にも止めないんだろうけどさあ)




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