AEVE ENDING
ギラギラと喰いつくような眼を見返しながら、雲雀は内心、酷く満足していた。
(いいね、その眼)
くすりと弾き出された微笑に気を取られたのは、完全に意気消沈していた生徒だけではない。
「……、クッソが」
立場も忘れて一瞬惚けてしまった自らを悔やむ。
倫子は鼻に皺を寄せて、雲雀を睨みつけた。
「ねぇ」
口許に薄い笑みを掃いたまま、雲雀は口を開く。
掛けられた声に、倫子は不機嫌を隠そうともせず無言で続きを促す。
ホールの床を打つ雲雀の革靴に、我に返った全員がそれでも動けないでいるうちに、雲雀は倫子の目の前まで歩み寄っていた。
「……?」
(近付くな、このスズメの大将が)
突然の雲雀の行動を警戒し、倫子は不思議に思いながらも負けじと更に眼光を強くする。
見上げた雲雀の顔が柔らかく歪む、と、ふいにそれが落ちてきた。
女生徒の悲鳴が小さく上がるのを右耳で捕らえつつ、左耳に触れるか触れないかの距離で囁かれた言葉。
「吼えてばかりで、まるで負け犬みたい」
くすりと笑う、楽しそうな吐息が耳を擽る。
(…負け犬)
わざわざ怒らせるのが目的なのか。
そうだとしたらやはり性質(たち)が悪い。
いや、そんなの今更か。
(このクソガキ)
「…うっせーよ、このボンボンが。ガキはさっさとうちに帰ってクソして寝ろ!」
雲雀にガンたれたまま吐き捨てた倫子に、再び沸き上がったブーイングは先程の比ではなかった。
死ねに始まり雌豚、クズ、売女、……誰が売女だ、誰が。
「貴様…、口には気を付けろ!」
そして梶本にまで怒鳴られる始末。
自業自得だが、散々である。
「ミチコったら下品だなぁ」
奥田にまで非難を喰らい、倫子の怒りは沸点間近。
スケコマシが上品ぶるな。
「…まぁ、家畜は吠えるしか脳がないからね」
「…私は、お前の家畜になった覚えはない」
再び喚きだした周囲を見渡しながら、雲雀が呆れるようにそう洩らし、その言葉が唯一届いた倫子が低く牽制する。
しかし雲雀は、再び鮮やかな笑みを作った。
欠陥のない、完璧な笑顔。
「君のことじゃないよ」
そう囁いた雲雀の声は、いよいよ騒然としだした周囲の声に音もなく掻き消された。