AEVE ENDING
「───双子。手を抜くな」
本気ではないにしろ、少なくとも神はやる気になったらしい。
「…雲雀様を相手に、手など抜けるはずもありません」
「その結末は、僕らの死だ」
リィとロゥが言葉と共に構える。
それを視認し、鍾鬼は倫子を抱え直した。
「…どこに行く気?」
がつん、と鈍い音が響いた。
反応が遅れたままそちらを流し見れば、雲雀の真っ暗な眼とかち合う。
底が見えない、───酷く静かな、空虚。
「速い、な」
音もなく目の前に現れた雲雀に、鍾鬼は感嘆するように呟いた。
鼓膜を刺激した鈍い音は、自分の首筋に当てられた雲雀の拳らしい。
互いの力の摩擦に、空気が振動したのか。
「…本気を出したら?」
雲雀の催促に、鍾鬼はやはり、嗤う。
不愉快な笑み、だ。
口角を釣り上げただけの、こちらを小馬鹿にするような、まだなにかを孕む、眼。
───思ったまま眉を寄せれば、釣られるように鍾鬼の唇が歪んでゆく。
「今はまだ、それをする時ではない」
鍾鬼の喉仏に当てられた雲雀の拳は、嘲られたのだと理解してすぐ動いた───が。
「っ、倫子!」
耳をつんざく悲鳴に、気が、逸れた。
視線を流した先、見覚えのある少女の姿。
「……、」
拳の制止は、それは決して、突然の乱入が原因ではなく。
『アミアミ、君は煩い』
『覗くなばか、変態、……っいてぇ』
『…そんなに、彼女が好きなの?』
『そりゃあね。アミは、私の一番の友達だよ』
そう嬉しそうに笑った顔が何故か、緊迫した空気によぎった。
(…馬鹿じゃないの)
以前なら考えられない、甘くなった自分に辟易した。
振りかざした拳をすぐさま引いて、悲鳴の主へと跳ぶ。
「っ、」
入り口付近。
既にドアもなにもない場所で悲鳴が響いた途端、双子のターゲットは彼女へと変わっていた。
その魔手をすぐさま阻止すれば、───当然、本来取り戻す筈だった倫子から離れてしまう。
「っ、雲雀くん」
爆音を聞きつけ、それが橘の部屋だということに気付き、慌てて駆けつけたのだろう。