AEVE ENDING
「…持ってかれちゃった?」
暢気な声、だった。
深く吐き出された溜め息は、この事態に向けたものだったのか、無理に眠らせてしまった恋人に向けたものだったのか。
黙ったまま口を開かない雲雀に、奥田は嘲笑を漏らす。
「…君がついてたのに、このざまなわけ?」
見渡す瓦礫の山に漂う、血臭。
あるはずの姿も見当たらない。
くわえて、普段冷静なアミの錯乱ぶりだ。
この場におらずとも、奥田の精神系サイコキネシスがなくとも、この状況下なら今し方なにがあったかくらい容易く想像できるだろう。
「…まさか雲雀くんが、アミを優先するなんて思わなかったよ」
脱力したアミを真綿でくるむよう、丁寧に抱き上げ、奥田はなんとも言い難い声で言った。
落ちる沈黙。
雲雀を責めるような気配は既にない。
初めから、そんなものなかったのだろう。
無力な己を恥じる故の、やりきれなさ、に。
「…どうして、アミを取ったの」
そう空気を振動させた声は、震えているような気さえした。
いい大人が、傷付いたそれを隠そうとしている。
「まさか、こんな事になるなんて、な…」
奪われたのは、神ではない。
───「神」、ではないからこそ。
(堕ちた林檎を待つ結末は、惨い)
眼鏡をフィルターに、奥田がその瞼をおろす。
まるで、神前で祈るように。
「…なにを、諦めてるの」
語らない神が口を開くまでは、それこそ数秒の間しかなかった。
しかし罪を悔いる奥田には、あまりに永く感じられたであろう、時間。