AEVE ENDING
「…ぃ、」
そんなことを考えていると、不意にのびてきた腕が倫子の肩を掴み体を半回転させた。
まるで物でも扱うかのようなぞんざいっぷりだったが、勢い良くぶつけた背中は痛くなかった。
柔らかな感触。
(ベッド…。どうして診察台じゃないんだ。客じゃあるまいし)
てっきり、再び実験体に逆戻りさせられるのかと思っていた。
仰向けになったことで、焦点が定まらない視界を高い高い天井が埋める。
半分に切ったレモンのような形をしたその曲線は酷く瀟洒で、四方から中央に集まる柱の交差には豪奢なシャンデリアが頭を垂れている。
(…ここは、)
確か、闇組織に捕らえられた筈だ。
けれどここは、そんな後ろ暗い組織に由来しているとは思えないほど手入れされている。
内装も、上品が過ぎた悪趣味で悪くはない。
(―――イメージが、噛み合わない)
明らかに黒々とした牢を予想していたというのに。
自分が置かれた状況をいまいち把握しきれず、倫子は鍾鬼を見上げた。
ベッド脇に腰掛ける、見た目だけは美しく儚げな東洋人は裏切り者だ。
「自分に与えられた処置が気に喰わないか」
やはり、片言じゃない。
夢なら良かったのに、と変貌してしまった元友人に焦点を合わせた。
「…気に喰わないわけじゃないけど、正直、理解しかねる」
倫子の言葉に、鍾鬼はさも可笑しい、と唇を歪めた。
(───でも、厭な笑みじゃ、ない)
雲雀を前にした時の凶悪ぶりは、今は微塵も感じ取れないでいる。
「檻に入れられ、動物のように飼われるとでも思っていたか」
図星を突かれて黙りこんだ。
そんな倫子を眺め、鍾鬼は更に口角を釣り上げて笑ってみせる。
「…、」
黒々とした睫毛が優しく細くなり、繊細とまでいえる笑顔を作る。
(この変わりっぷりはなにかな…)
片言でなくなったのは確かだが、何故か笑顔は友人だった頃のままだ。
とはいっても、かなり短い期間の交友関係ではあったが。
(…こいつ、なに考えてんだろ)
考えてみても答えなど出るわけもない。