AEVE ENDING
「…あ、」
ふと、肌触りのいいブランケットに隠れた腹が憐れにもぐうと鳴いた。
鍾鬼を見るが聞こえなかったらしく、ただ無心に窓の外を眺めている。
(なに考えてんだよ、馬鹿)
仕方がないので、声に出す。
「…お腹空いたんだけど」
言えば、相変わらず無神経な女だと馬鹿にされた。
余計なお世話である。
「いま用意させている。猫まんまで良いのだろう?」
「きゅうりのお漬け物も欲しい」
「贅沢を言うな」
「…ここどこさ」
「どこでもないどこかだ」
詩人かよ、と突っ込みたくなったが、そんなこと言われては身も蓋もない。
立て突く要素まるでなし。
お手上げだ。
(満腹になったら、体も動くだろうし)
事の詮索はそれからでもいい。
想像していた難攻不落、脱出不可能の要塞とは違うようだし、これなら逃げる隙もあるやもしれない。
(…泡ぁ、吹かせてやる)
この馬鹿、と内心で鍾鬼に毒づいた。
「下手な考えは身を滅ぼすだけだぞ、うつけめ」
したらば殴られた。
動きもしない無力な体に、渾身の右ストレートはダメージか大きい。
涙が出るほど痛かった。
(…不自由な体)
───感情が迸るまま真っ直ぐに、襤褸襤褸になっていって。
(未だに、能力を使用した時の負担が軽減しない…)
なんて、脆い身体だ。
痛む額を撫でることも叶わず、部屋から出る鍾鬼の背中を見送る、しかできない
。
(助けばかり求めて、生き恥を晒して、強者に縋って、ここまで生きてきた、のに)
「…ひばり、」
ねぇ、雲雀。
(この声は、あんたに届くだろうか)
雲雀、私はやっぱり駄目な子だ。
(無様に敵に捕らえられて、どう足掻いたって、あんたにこの手は届かない、のに)
それなのに、私は。
(あんたの名前を、ただひたすらに呼んでしまう)
己の身を省みれば、それはあまりにも、身勝手ではなかろうか。