AEVE ENDING




(───大体、あの場に雲雀がいたのに、…)

なんで、私、ここにいるんだ。

(雲雀が鍾鬼に負けたとは考えにくい、し)

ふとそんな事実に気付けば。

(もしかして、…捨てられた?)

───いや、そんな色っぽい意味ではないけれど。

気を失っていたせいか、状況がどう転んだのか解らない。

(…あーあ、)

そんな価値しかないのだろうか。
雲雀にとって、やはり掃いて捨てるだけの家畜の一部なのだろうか。

しかも、処分を他人に委ねてしまえるほど、無価値な。



『───殺してあげる』

耳に、未だに残るそれは温情であろうか。

蘇る、あの優しい顔。

(優しい顔なんてしてくれるから、)

てっきり、一線は越えたものと自惚れていた。

(私はなにより、それを畏れて望まなかったのに)




『悲しいの?倫子』

見知らぬ空気に、独り。
縋る拠りどころもない。


『君を終わらせてあげる』

あんたのその、真っ白な手で。
汚れた私の身体に洗礼と慈しみを。


『だからそれまで、せいぜい他の蟲に喰われないよう気をつけなよ』

―――うん。

「りょーかいした、雲雀」

だから、必ず。






「なにを了解した?」

不意に割って入った声。
軋む首を動かせば、なにやら湯気が立つトレイを手にした鍾鬼の姿がそこにあった。

「…気配もなく近付くんじゃねぇよ、カタコト」

つっけんどんに言い放つが、気にした様子もなくトレイをベッド脇のチェス台に置いた。

かつり、とクイーンの駒が落ちる。


「カタコトじゃない」
「カタコトの方が可愛かったのに」

意味をなさない会話に、鍾鬼から深く溜め息が漏れる。


「…近付きやすくしただけだ」

冷ややかに。

「カタコトがいい」
「お前の我儘をきいてやる寛容さは持ち合わせていない」
「ドッケチーカタコトドッケチー」
「どけち…?」
「ほれみ。片言だよ、カタコト」

ざまぁみろ、と誇らしく笑う倫子に、何度目か、鍾鬼は呆れた。





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