AEVE ENDING
「危機感がない女だ」
「腹減った」
「…殺したくなるからその能天気ぶりをやめろ」
その言葉に、倫子は目を丸くする。
「すげーね、大陸人って。能天気なんて日本語知ってんだ」
「殺すぞ」
「殺せば。殺していーんなら」
にたぁぁ、といやな笑みを浮かべた倫子に、鍾鬼は苛立たしげに眉を上げた。
「ふてぶてしい」
切り捨てた言葉は、降参の意。
倫子は厭らしい笑みを浮かべながら、視線を食事の乗ったトレイへと向かわせる。
チェス板がベッドより低いので湯気しか見えないが、匂いは。
「…味噌汁の匂いじゃないし、」
「良く解ったな。嗅覚は犬並か」
ふん、と鍾鬼が鼻を鳴らす。
蔑まれた倫子はしかし、それどころではない。
「てか、味噌汁…」
「捕虜なんぞの要望を受けて味噌汁なぞという田舎臭いものを作りたくはないそうだ」
そうして差し出されたのは、黄金色に輝くコーンスープとロールパン二個、プラス、等身の低い缶に入ったバター。
「…、雲雀メニュー」
手元に置かれた洋風の食事に呆然と呟けば。
「もとは雲雀の為に用意したシェフ達だからな。嗜好も腕も、貴様のような貧乏舌には合うまい」
憎らしい声が返ってきた。
「…うざ」
それに短く切り返し、食事へと手を付けようと手に力を入れるが。
「……」
動かない。
「動かないのか?」
溜め息。
「手の掛かる、」
更に、溜め息。
───バチィン。
「…っ、い、」
な ぐ ら れ た…!
滲みる頬、咥内に広がる血の味。
口の中を切った。
今から食事をするというのに。
というより、雲雀と会ってから口の傷が癒えることがない。呪いか。
「…っに、すんだてめぇ!」
ベッドから勢いよく起き上がり、真横に立つ暴行人に殴りかかる。
…あれ。
「良かったな。喰え」
ついつい反射的に動いてしまった倫子の拳を顎下に浮かせたまま、鍾鬼は無表情にそう言い放った。
「…どうも」
バツが悪い。
この男はなにを考えているのだろう。
全く以て予測がつかないし、なにより、何故、大陸の神が。