AEVE ENDING
「―――あんたは、…なにを目的に日本へ来たの?」
ロールパンを一口分ちぎり、バターを塗り付ける。
庭から漂う薔薇の強烈な匂いが鼻を突いて、あまりいい食事環境じゃないのは確かだ。
「言わなかったか?」
倫子が食事を終えるまで、隣で待つ気らしい鍾鬼が鼻で笑う。
『俺がまだ母国の箱舟に居た頃、オイシイ話とやらを、頂いてな』
『愚かで無様な人間が支配するこの醜い世界の、頂点に立つ』
「…誰が、あんたを呼んだの」
『神の力を植え付けられた、』
化け物からアダムに輪廻した───。
『そう教えられたよ、橘倫子』
「誰、が」
「愚問だな」
倫子の問いかけを、侮蔑の籠もる声が遮る。
その態度が気に食わない。
「人サマ誘拐しといて何様だ、てめぇ」
パンを口にする。
上等すぎて口に合わない。
(…クソッタレ)
「なんで、こんな目に」
遭わなきゃならないのだろう。
(全て、終わった筈なのに)
指の中でぐちゃりと形を変える柔らかなパンの感触が酷く不快だ。
「、っ」
感情のままパンを握り締めていた倫子の指を、鍾鬼が音もなく掴んだ。
やんわりと指を外され、形を変えたロールパンが皿に転がった。
「…それはお前が、一番良く知っているだろう」
静かに吐き出された言葉は。
「───…っ、」
どこまで、知っているのか。
一体、どこまで。
「全て見せて貰った。お前を最も近くで見ていた男の頭の中を、覗いたからな」
それ、は。
「追放された男から、お前の情報は、全て」
研究当時の全てを。
「西の島から、連れ戻した、…」
あの男、から。
倫子の体を切り裂いた男から、全てを。
『聞けよ、橘』
『貴様は、ただ私達に委ねればよい』
―――橘。
『この醜い体を以て未だに生き長らえるとは、』
『この世界の汚濁であろう』
『橘…、なんと憐れな、橘』
「…っ、」
ガシャン、と耳に痛い落下音と共に倫子は再び天を仰いでいた。
倫子の首を絞めるその指はやはり細く、温度も低い。
───まるで、雲雀の手のように。