AEVE ENDING
「俺を呼んだ男から、修羅と、…お前の話を聞いて」
真上に垂れる長い黒髪は風に靡き、まるで倫子を惑うように動いている。
今にも倫子を殺してしまう、刃のような鋭さで。
「すぐさま、研究者のひとりが幽閉されているという地下へと向かった」
その真っ黒な眼に、映るのは。
「───男は発狂しかけていた。真っ白な部屋で、お前の名を、ひたすら呼んで」
『橘、』
『…橘』
『橘、橘、橘』
耳につく、あの妖しげな名を。
「興味深かった。男の頭のなかは、最高に」
無表情に近い、笑み。
「っ、」
着せられていた服を剥かれた。
乱暴に剥がされた瞬間、肩口の傷を掠った爪が痛い。
「無垢な身体のまま、全て曝され、國の為に、腐りゆく憐れ」
傷口を湛えた躯を冷徹な視線で一嘗めされる。
けれどその奥に宿る、静かに燃え揺る炎。
(皮膚を走る、痕を)
「橘倫子…、憐れな女だと」
黄金比を象るような唇が降りてくる。
鍾鬼が呼吸する度に霞む視界は、まるで夢を見ているに等しい。
「…どんな女なのかと、」
(あの凄惨な過去を負った、娘の)
「他人にそこまで弄ばれた人間がどうなったのか」
興味が尽きなかった。
だからこそ。
「俺を組織へと誘った男に、お膳立てを頼んだ」
記憶を覗いた男の全てを占める、憐れなヒトという生き物、橘倫子。
「…お前に、逢うために」
額へと落ちる唇。
それをむざむざと甘受するしかない私は、あまりにも無様ではないか。
「…っ、」
絞められた首はただ弛く拘束されたまま。
「雲雀という修羅にも、勿論、興味は湧いたが」
柔らか過ぎるそれは、肩口の傷に落とされたまま、蟲のように動く。
「憐れな女のほうが、俺には余程、興味深い」
肌けたままの皮膚が風に曝され、徐々に冷たくなっていく。
のし掛かるように馬乗りになる鍾鬼は、ただただ、静かに語りを続けた。