AEVE ENDING
「嘘が下手だ」
唇が押しつけられた心臓だけが、酷く冷たい。
───まるで、醜い箇所から腐ってゆくみたいに。
胸の膨らみの真下。
とくとくと、今やなんの異常もなく、この体を生かす、それ。
「お前の眼は、まるで」
囁かれた言葉の先を、私は望み、望まない。
「やめろ」
言い放てば、悪どく、それでいて美しく釣り上がる頬骨が不愉快だ。
「お前はおかしい」
愉快だと笑み、そして。
「今更、」
茶番は終わりだと、力が戻った腕で分厚い胸板を押しやるがしかし、その力はぐいと押し戻された。
目下、下される冷たく変貌した色味のない、眼に。
「…、離せ」
拒絶をと、体に鞭打つのに、倫子の体は鉛を溜めたように動かない。
静かな、ただ薔薇の香りと、鍾鬼の真っ黒な眼だけが。
(…こんなに似てるなんて狡い)
惑わされそうに、なるから。
(これが弱い人の心というものだろうか。下らなすぎて反吐が出る)
偽りの姿に縋りついて、あの時みたいに、抱擁を求めて。
「───俺がお前を奪ったら、奴はどんな顔をするだろう」
そして神の林檎は、甘く醜く熟れてゆく。