AEVE ENDING
「―――数年前の話だが、政党に籍を置く人間が私にコンタクトを取ってきた」
背の高い木々により鬱蒼とした庭から響く、名も知らぬ鳥の鳴き声。
「この腐敗した国の再建を実現すべく、秘密裏にある研究を行いたい、と。新人類アダム箱舟連盟の私に協力を請う、とも」
足元の小さな人形が再び鳴く。
まるで桐生の言葉に賛同するように、雲雀を嘲笑うように。
「…人体実験」
なんの力も持たない人間を、新人類アダムへと強制的に進化させる、劣悪な神の諸行。
「馬鹿馬鹿しい、とは思ったが興味深くはある。果たして本当に、無力な人間が高潔なるアダムへと成り得るのか。果たして神でもない無力な人間が、それを成し得るのか」
大変、興味深い遊戯だった。
「その不合理な実験の果てに、どんな化け物が産まれるか、それらは日々の愉しみになったよ」
くつりと鳴いた咽喉が、全て嗤うように上下する。
「私も何度か研究棟へ足を運んだが、あそこは酷い場所だった」
まるでそれを思い出したように、桐生の英知な眉が顰められる。
「まだ幼いそれの体はメスで裂き開かれ、様々な薬物に皮膚は爛れ、既に麻酔は効かず、薬物中毒にすらなっていた」
真っ白な部屋の中央。
まるで磔にされた蝶のようにベッドに寝かしつけられた、傷だらけの体。
鼻につく、腐りきった血と肉と、真新しい薬品の臭い。
「私は初めて、憐れむ、という感情を抱いたよ」
桐生はさも可笑しげに嗤う。
紡ぐ言葉とはまるで正反対のその表情に、雲雀は不愉快だと眼孔を強くした。
「憐れな生贄は、どこにでもいるような小娘だったが、その醜く穿たれたような体でもなお、息をしていた」
まっさらな空間。
滲む鮮烈な赤と、赤黒く変色した皮膚の更に、奥。
再生したばかりの真新しい肌に透ける、ゆったりと動く小さな心臓。
網膜を摂取するため無理矢理引き上げられた血乱れの瞼に、皹れた唇の歪み。
道徳や倫理など介入しない場所で、容赦なく踏みにじられた、生身の人間像。
あかあおきいろしろみどりくろむらさき…極彩色のコードに繋がれた体は、既に人のものとは言い難い。