AEVE ENDING
「あれを見た日は、その極彩色が眼から離れなかった。瞼を閉じても、なにをしていても、赤く熟れる、胡乱な死んだような眼がちらついたものよ」
息を呑んだのは、その異質と狂気を形にしたような体だ。
耳につく静かすぎる呼吸音に、絶え絶えと漏れる悔恨、そして、憎悪。
『……、…や、る』
掠れた咽喉の震えは。
『…ころして、…やる、』
ピ、ピ…。
脳に直接繋がれた機械の警告音に、研究者のひとりが呆れたように嗤ったのを覚えている。
『―――興奮するな、橘。貴様に我々は殺せぬ』
冷徹でどこか嘲りを含む声色。
それでも人を擬態したそれは、憎しみも露わに吐き出した。
『…っ、ぶっ殺してやる』
原型も留めないくらい、めちゃくちゃにめちゃくちゃにめちゃくちゃに。
―――殺してやりたい。
「…憐れな娘だ。田舎で産まれた、なんの変哲もない、無辜の子であったのに」
語られるそれらを前に、雲雀はただ口を噤むしかなかった。
それを嗤う、桐生の白濁。
「知っていたかね?」
意地悪く、それは冤罪を画策する一声。
「その実験の計画段階において、試験体として一番に推されていた人物がいたことを」
それは、あれの憎しみを暴くもの。
「───…、」
桐生に促された思考が導いた答えに、雲雀が小さく唇を震わせた。
それは後悔でも、懺悔でも、なく。
「…君だよ、雲雀くん。この国が誇る高潔なアダムが、本来ならその身を引き裂かれる筈だった」
かみさま。
『あの実直な娘が、たかが能力の源を提供しただけの男に憎しみを抱くと思うか』
―――罪、はどこで産まれた?
「…皮肉だな。たまたま彼女の育った地に特使として向かっていたお前の母親が、大切な息子を守るために身代わりに選んだ者が、」
かみさま。
『───橘、倫子…?』
遠くで鳴く鳥の声が、悲鳴に聞こえた。
『何故、生きて…』
なにを思っていたのか。
(僕の隣りで、なにを)