AEVE ENDING
「地方の学校を視察していた愛情深い女の肩にたまたまぶつかってしまったのが、橘倫子の不幸の始まりだった」
助けて、神様。
『…雲雀、ひばり』
柔らかな声は、偽りだったのか。
あの無惨な体を犠牲にして、何故、笑っていられる。
『本当は、優しいくせに』
はにかんだそれが、躊躇いだとしたら。
うちに秘めた深い増悪の火に水を差されたように。
―――躊躇いが、あったのだろうか。
その傷ついた体のうちを、葛藤で乱して、尚。
『…雲雀』
(───あぁ、落ちたい)
鼓膜に、脳髄に、記憶に滲みる声にすべて委ねて。
「全く、まさか君があれに惹かれるとは」
或いは、必然だったのだろうか。
無様な姿を床に這わせ、こちらを睨みつけてくる。
視線だけで、焼かれそうになった、あの高揚に似た恐怖。
「…まぁ、」
あの焦がれるような、憧憬。
「解らなくもないがね、」
血が沸いた。
あの鮮烈に視界を灼く、甘美に濁る紅。
『雲雀』
『…、ひばり、ひば、』
悲鳴混じりに僕を呼んだ、あの時。
(…そこまでされて何故、僕を呼んだの)
今はもう、確かめる術もない。
───ならば。
『…雲雀、』
頭の端に木霊する声を取り戻したいだけ。
(なにはどうあれ、僕があれを終わらせることに変わりはない)
ならば、答えは簡単ではないか。
「…過ぎた話に興味はない。僕は、これからの話をしてる」
白濁に沈む桐生を正面から見据える。
下劣な嗤いを含んでいた濁色は、今はもう、無色に近かった。