AEVE ENDING
「…私がなにか知っているとでも?」
「或いは関わっているか、今はどちらでも構わない」
··
―――あれは、何処なの。
『…雲雀、ねぇ、雲雀』
木霊する、柔らかな声。
『あんたの子供は、きっと可愛いよ』
ねぇそんな、下らない話をして、馬鹿みたいに笑って、そして僕に殴られて、泣いて喚いて、また、声を上げて、笑って。
(早く戻りなよ、僕の片割れ)
『ねぇ、雲雀』
この胸に息づく物足りなさはきっと、不足したひとつを知っているからだ。
とくり。
たぎる心音に、君の手を。
「例え、私がなにか知っていたとして、それを君に話すと思うかね」
慇懃な笑みを浮かべたそれは、雲雀の神経を逆撫でする。
ぞ、と背筋に走るこれは、快楽を伴う、戦慄。
「…思わない」
くつり、吐き出された笑みは、血を好む獣だ。
静かに空気が切っ先を鋭くさせて、皮膚を引き裂いていくような緊張感。
全身の毛穴が全開になる血腥い先を、望む、好血者。
「───ならば、どうする」
低く嗤うそれを合図に、雲雀が素早くその手を差し出した。
同時、跳ねるように跳んだ脚で一気に桐生との間合いを詰める。
「…、」
雲雀の指が届く寸前、或いはわざと、その瞬間まで焦らして、桐生は組んでいた左中指を曲げてみせた。
バチ…。
それに呼応して飛び出した「それ」が、桐生の目玉を狙った雲雀の指を喰い止める。
───先程、雲雀が踏みつけた壊れかけのパペットマリオネット。
かくりかくりと球体で胴に繋がれた肢体を駆使し、それは雲雀の右手を絡みとるように止めている。
「…相変わらず、つまらない闘い方だね」
自身は指以外なにも動かさず、代わりに痛みもなにも感じない人形を盾とする。
痛めつける弱者の悲鳴と流血を好む雲雀にとって、桐生の傀儡の術は余りにもつまらないもの。
「なにを言う。天空を舞う彼らの姿を美しいと思わないのかね」
しかし桐生は異常なまでのピグマリオニズム(人形愛)。
その造られた繊細で美しい表情を崩すことなく、残酷に生身の相手を畏怖させるその慈悲も躊躇もなにもない、無機質な美に酔いしれるのだ。