AEVE ENDING
「その美しい躯に傷を付けるような遊び方はやめろと、再三注意した筈だが…」
仕方ない。
直に触れるその血塗れた手こそが、麗しい存在価値なのだ。
「下らない」
獲物が息を引き取る寸前まで、罪を赦さないその静かな声。
―――求めている。
気性の荒い、気高い男神が、己が大切な大切な林檎の実を。
「…随分と、安い林檎だな」
独白に近いそれは、雲雀には届かない。
届く必要もなかった。
(両羽をもがれた、鳥にも人にも、果実にすらなれぬ化け物を)
修羅は、心底から求めているのだ。
「それで、貴方は僕が望む答えをくれるの?幾田桐生」
空気を噛みしめるように紡がれ、桐生は喉を鳴らして嗤って見せた。
「急くばかりではなにも得ないと、教えたはずだがな」
それは嘲りか、了承か、或いは含みか。
「…もたもたしてる間に、獲物が死んでしまったら元も子もないからね」
なにせ、倫子は雲雀の身代わりだ。
闇組織が雲雀ではなく、倫子を狙う理由。
(―――僕と、橘)
胎内に在る能力値は同じでも、産まれつきアダムの雲雀と人工的に発病させられた倫子では心身ともに大きな差がある。
力の核だけを移し変えられた倫子。
アダムとしての能力を持ちながら、その脳も身体も細胞も、脆弱な人間のもの。
他方からの害から自らを防衛する本能的なストッパーすら、ない。
だからこそ。
『…倫子なら、簡単に操作することが出来る』
雲雀を飼い慣らせなくとも倫子なら飼い慣らすことができるということ。
敵のメリットは、危険を最小限にとどめて雲雀と同等の力を手にすることが可能だということだ。
そしてリスクは、その能力の入った器が硝子細工のように脆い、ということ。