AEVE ENDING






混濁した意識の中。

腹部を中央から裂かれ、薬物を投与されている間も。
痛みに身を丸めて耐えた夜も。

いつもいつも、考えていた。



『ねぇちゃん』

『みちこねぇちゃん』

昔。

そんな昔でもないけれど、なにもかも変わってしまった倫子にはその昔が、前世の記憶のように遥か彼方に思える。

比較的、大戦の被害が少なかった九州地方で産まれた。
都心部より比較的植物が残り、か細い畑でなんとか生活をやりくりしていた土地に、倫子の実家はある。

五人兄弟の長子に産まれた倫子のすぐ下には弟が三人と妹が一人。
すぐ下の長男とは三つ歳が離れていて、あとは次男とは四つ、次女とは六つ、三男とは八つ離れていた。

元々、出稼ぎ農業一家だったため両親は留守がちで、常に長子の倫子が母代わりとして毎日毎日、幼い弟妹達の世話をしていた。

貧しくとも平和に過ごしていたと思う。
この廃れきった世の中、こどもだけで何事もなく暮らせていたなんて奇跡に近い。

タチの悪いごろつきや強盗なんて掃いて捨てるほどいたというのに、今思えば、よほど平和な田舎だったのだろう。

地元の人間達は情に厚く、助け合いを苦としない。

例え、他人の子といえど世話が必要なら我が子と同じ、と、倫子達弟妹もよくご近所に面倒をみてもらっていた。


『ねぇちゃん、となりのばあさんちから大根もらってきたよ』
『でかい大根だなぁ。ばあさんにお礼した?』
『しょうゆが切れちゃったって』
『じゃあ、お醤油持っていこうか』

基本ギブアンドテイクの精神で、金で物を取引することはなかった。

格差社会の真下にいる倫子達に、「金」という概念はない。

自前の畑で取れた野菜、薬味や薬、衣類を交換したりと、物々交換で毎日生計を立てていた。




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