AEVE ENDING
『人は縋らずには生きていけないもんだよ。こんな状況なら、尚更』
寝台に寝かしつけられた倫子の顔を覗きながら、若い顔をした奥田は嗤う。
『…縋ったって、なにも救われないのに』
嗄れた声。
醜い。
ぐらぐらと脳味噌が湧いてくる。
薬物への拒否反応で発熱が続き、ずたずたになった内臓が穴という穴から流れていってしまいそうだ。
引くことはない倦怠感とは、もうだいぶ長い付き合いになった。
『―――それでも、縋らずにはいられないでしょう、倫子も』
静かに、なんの感情も込めずに語る男は、この研究棟では珍しかった。
この罪深い研究を筆頭する三人の男達は、いつもいつも、倫子を嗤うようにお喋りする。
自らの優秀な技術に酔いしれて、そして倫子という人間を「神」にしようとする、その傲慢な手に。
『…私は、どんな形で死ぬと思う?』
(その皺だらけの手で、私を破壊してゆく)
『死にたいと思うの?』
『…ううん、まだ、死ねない』
奥田から視線を移して、視界を天井で埋める。
真っ白で、シミひとつない、白亜の世界。
目を焼かれるほど強烈な、深く眩しい白い世界。
(真っ白…あの男も、)
『修羅を、殺すまで?』
奥田が瞼を伏せる。
睫毛のない、薄い瞼が電球に透けて、元から億劫な表情を、更に落としていく。
『…修羅なんか知らない。修羅なんかとは、会いたくもない』
(私は、修羅になんてなりたくない)
なりたくないのに。
―――私は。