AEVE ENDING
「…目が覚めたか」
―――天井。
色が違う、クリーム色だ。
半球体、ドーム型。
「いまなんじ…」
夢のなか、というより古い記憶のなかで、奥田がいた場所には鍾鬼の姿があった。
艶やかな長髪が肩にすらりと掛かり、光沢を増している。
「夜だ」
冷徹に吐き出された声と共に、冷たい風が入り込んできた。
誰だ、窓を開けっ放しにしてるの。
吹くそれは、夜の匂いを孕む風だ。
熱を含まないそれは、家を持たない貧困層の人々にとって生死に関わる脅威となる。
「時間くらい正確に教えてもいいんじゃないの?」
「正確に知れば、時を長く感じるだろう」
「…長く感じちゃ悪いわけ?」
「下手に疲労されてはあとで困る」
テンポ良く帰ってくる冷静な答えはほとほと聞き飽きた。
(…なに考えてんだか)
足元に視線を置いたまま唇だけを動かして、こちらの相手をする。
書物を手にするでも、倫子をいたぶるでもなく、ただなにもせず、時が過ぎるのを待っているように。
だからと言って他愛ないお喋りをして、倫子の気を紛らわす気はさらさらないらしい。
(いつ、眠ってしまったっけ、……)
仕方なく記憶を辿れば、随分と際どいところでフィルムがぶち切れていた。
(ご飯を食いそびれて、服を剥かれて、…首を絞められて、)
『───俺がお前を奪ったら、修羅はどんな顔をするだろうか』
蘇る酷薄な笑み。
半裸の倫子に馬乗りになる、鍾鬼。
………アレ?
最悪の結末にいきつく倫子の脳内で、卑猥な映像がぐるぐると廻る。
滲み出る冷や汗。
グルグルと揺らぐ視界。
そんな倫子に気付いたのか、或いは思考を読み取ったのか、鍾鬼が俯けていた顔を上げた。
「安心しろ。使い古されたまな板のような女、抱く気も起きん」
つかいふるされたまないた。
あまりの言い様に、理解するまで時間がかかった。
「…喜べばいいのか殴ればいいのかわかんねーよ」
「喜べ。お前は一生処女だ」
「…殴るだけじゃ済みそうにない」
「少し、黙れ」
お前と話をしていると、貴様の術中にハマりそうになる。
咥内で呟かれたそれは、艶やかな溜め息とともに空気に溶けた。