AEVE ENDING
今はまだ鍾鬼しか姿を見せていないが、きっとこの洋館のどこかに双子達もいることだろう。
ならば例の蛇男だっているはずだ。
(アダムとしての能力でトップに立つのは、恐らく鍾鬼。次に蛇男、その次が双子、か。でも策士はどちらかと言えば、蛇。…鍾鬼と双子は力に物を言わせるパワータンクタイプだ)
自分が知る限りでは、そのような系図を作ることができる。
しかしなにぶん情報不足だ。
まだ姿を現していない伏兵もいるかもしれないし、逃げ出す算段をつけたとしても、彼らが相手では万にひとつも勝ち目がない。
「その通りだ。早々と死期を迎えたくなければ、黙って俺に従え」
またも脳内を流してしまったらしい。
それを読みとった鍾鬼が、倫子が抱く小指の爪ほどの希望を叩き潰そうと吐き捨てる。
それは蛇足だと、わかっているのか。
「…お気遣いどうも」
皮肉でもなくそう口にした後、無意識に溜め息が漏れた。
気が抜けた炭酸水のように、味気ない倫子の中身。
―――何故、私であったのだろう。
(…誰だって、良かったのに)
実験体は、倫子である必要はなかった。
神になる資格なんか、要らなかった。
(これが神の采配だというのなら、私は神を怨むべきなのだろうか)
過去の不運が、今の倫子に残したもの。
それはあまりにも、醜く汚く、未来永劫、蝕むもの。
未だ過去に、囚われたまま。
『なにを見てるの?橘』
自由でありながらも、捕らわれている。
『ヒバリ、ひばり、雲雀…』
(虹彩に、目眩がする)
揺れる濡れ羽の、混じりけのない黒。
夜の海を思わせる、躊躇いも戸惑いも見せない、瞳孔の不透明な黒。
雪色に落ちる、睫毛の細い陰。
それらは鮮明に、倫子に内包されて反射する。
(───囚われたのは、寧ろ私のほうだ)
あの残虐なまでの空気に、何度、身を灼かれそうになったか。
『貴様は虫螻とそう大差ない。そのうちに神を宿そうとも、それはただの罪人の証でしかないのだから』
───罪人が神に触れることは赦されない。