AEVE ENDING






(事実、私は躊躇った)

あの男に、触れることを。

強烈な存在感に、目を潰されるかと怯えながら。

混ざらない、なにひとつ混ざらない、単色の美麗。



「…私は、雲雀の餌にはならないよ」

それは自嘲に過ぎなかった。
罪人は、赦される期待もただ待つことも、できない。


「…代わりにもならない」

この体は脆いから。

それこそ、神の器ではない、ただの人体に。
そんな危ういものを使って、世界を破壊する気でいるのだろうか。

ネジの切れたカラクリのように役に立たない、既に用済みの、この身体を。


「だから逃がしてくれと、乞うているのか」

よく似た色彩が揺れる。
共通点の多い色味の中で絶対的な違いをあげるとしたら。


「お前のような人間に解るわけもない。人の醜さも、浅はかさも、罪深さも」

濁々とした、内包。


(怨んでいるのだ、この男は)

身に宿る暗澹とした気配は、人を貶めてゆく。

この男も過去に囚われた眼をしているのだ。

やはり、同じように。



「…同じだよ、人もアダムも」

相違点など、さして見当たらない。

創りは同じなのだ。
その躯も、脳味噌も、感情の創りすら。

倫子も鍾鬼も、憎む相手が途方もなくて、立ちんぼしている。


(私は神を、)


───鍾鬼は。






「…同じじゃない。あのように醜い生物と我々をひとくくりにするな」

静かに、それを努めている声は、寧ろ幼さすら感じさせる。

決意と葛藤の狭間で苦しんでいる、強くも脆い、盾。


「…同じだよ。人間もアダムも、ヒトゲノムに組み込まれた殺意は、本能と同じだ」

今のあんたがそれを証明してるのに。





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