AEVE ENDING





かの修羅と倫子がパートナーであった時期はそれこそほんの数ヶ月であった筈なのに、今この空間に、雲雀の横に、あの口やかましい存在がないことに違和感を感じてしまう。


―――それを、雲雀も感じているのだろうか。

なんの味気もない透明な気配を纏いながらも、どこか憂う華奢なその背中は今はひとりを痛感しているように冷たく見えた。

(…彼も、寂しいと感じることがあるのだろうか)

同じパーツを失った、共通する私達。



「…倫子はね、雲雀くん」

靴音と混じる自分のか細い声。
今更ながら、修羅の圧力にあてられた自分が情けない、と言葉をとどめて苦笑する。


「橘が、なに?」

そんなアミを意外にも促して、しかし雲雀の歩調は変わらなかった。
聞き返してくれるだけ奇跡に近い。


「…倫子が、一度だけ私に話したことがあったの」

まだ雲雀とパートナーを組んだばかりの頃。

互いに多忙を極めた日々の合間に、偶然、この回廊で倫子と居合わせたことがあった。
この広い箱舟で偶然にも顔を合わせるなど滅多にないから、お互いはしゃいで口を開きあったものだ。

ルームメイト時代のように、内容なんてあってないような話をして、始まったばかりのセクションの話や、新しいパートナーの話。


「…最初はね、雲雀くんの愚痴ばかり言うのよ」

サディストだとか魔王だとか、陰険だとか慇懃だとか陰湿だとか、思いつく限り、鼻息を荒くして。

ただ、少しして黙りこくってしまった。
どこか遠くを見るようなぼんやりとした、魂が抜けたような、表情。


『…倫子?』

昔から溌剌としている彼女には珍しい顔だった。

───いや、この箱舟にやってきてから、度々このような顔をするようになったことには気付いていた。


会わなかった空白の時間。
なにがあったのか、深くは聞けない。

少しの間、どこか感情を押し込めるような眼をして。




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