AEVE ENDING
『…でも、』
『ん?』
―――でも。
『でも、私はあいつを殺せない』
それを聞いた時は、雲雀をどんなに嫌っていたとしても、互いに持つ能力の差を考えれば勝てやしない。
───そういう意味だと、思っていた。
『いやだな…』
「でもね、あの子、そう言った時、泣きそうな顔して笑ってたのよ」
私は、なにも知らないから。
『どうして、…』
自分がアダムとして箱舟に収容され、倫子と離れていた過去のことなんて、知りはしないから。
『傍になんか、いたくないのに』
だって、こんな近い距離じゃ、なにもかも、見えてしまう。
悪いところすら、そして。
『…あいつ、ほんとは優しいんだよ』
皮肉げに嗤って、そして泣きそうに、なって。
「―――今思うと、殺せないんじゃなくて、殺したくないって、言いたかったのかな、って」
惹かれていたのだと、第三者の邪推だとわかっていても、考えてしまう。
倫子は、雲雀を憎む一方でどうしようもないほど、彼に惹かれていたのではないか。
(修羅に、どうしたって惹かれてゆく自分自身に、戸惑ってしまうほどに)
「…それで、君は僕になにを言いたいの?」
言葉を切ったアミに、雲雀は冷ややかに言い捨てた。
投げやりともいえる、そしてどこか呆れたような、眼を。
「―――さぁ…、なにか言いたかったわけじゃないのよ。ただ、聞いて欲しかっただけ」
求めていたものは、なんだったのだろう。
「聞いて欲しかったということは、それを聞いた僕になにかしらの変化を求めているということだ」
―――くだらない。
「情に訴えるような真似しなくても、僕は橘を取り戻すよ」
感情も込めず。
押し込める感情すら、沸き上がらないような無機質。