AEVE ENDING
「君のような罪深い人間が、まさか、穏やかな死を望んではいまい?」
その腐食しかけた汚い体で、神に一瞬でも愛でられたことに、より一層の罪を感じるがいい。
微かに見開かれた倫子の眼が、桐生を嗤わせる。
―――動揺。
「…ましてや」
波紋のように広がるその淡い不安と贖罪が痛ましい。
「自らが穢した神の手を、未だ求めるなど」
恥を、知れ。
一句一句を強く吐き出せば、強くなる殺気が心地良く桐生の身を震わせた。
切っ先が鈍い襤褸刀のような、汚濁する内波。
「…私は、神なんか求めていない」
時間が過ぎて辛うじて吐かれたそれは、自覚ゆえのものか。
(―――私が、望むものは)
··
「アレは、神だ。君では不相応過ぎる」
桐生が淀みなく口を挟めば、倫子は憎々しげに視線を歪めた。
ぎちり、と歯が軋む。
「雲雀は、神なんかじゃない…!」
怒りを押し込めるように吐き出された言葉の、なんと愚かしいことか。
「君がそう思いたいだけだろう。彼は神だ。神に成りうる、至高の存在。君がどれだけ欲しても、手に入ることはない…。あれは、わたしのものだからな」
ぐ、と息を飲む音がする。
先程から繰り返される仕草が、あまりにも人間臭くて吐き気がする。
醜い。
「あれは必ず私の手に堕ちる。…何故か、わかるかね?」
あの白磁の肌はなによりも透明な色彩を以て愚民を圧倒する。
あの心臓が凍ってしまいそうな程の、強烈な存在感。
生き死にすら、左右されたいとその眼に願う。
「───あれが生粋の修羅だからだ。君にはわかるまい。あの研ぎ澄まされた鮮麗たる全てが」
ほの暗いランプの光が、果実を揺らめかせている。
或いは、彼女自身が揺らめいていているのか。
「…なら尚更、雲雀はあんたのものにはならない」
それは、尤もな反論だ。
あのような存在が生きていることすら、信じがたい事実であるのに。