AEVE ENDING






「…なにか、勘違いをしているらしい」

皆が皆、とんだ早とちりをしている。
あの雲雀という男の存在が強烈過ぎて、桐生の本当の目的を履き違えている。


「───私が欲しいのは、雲雀ではない」


欲しいものは。




「、…まさか」

絡んだ糸を解くように吐き出された静かな言葉に、倫子は絶望したように脱力した。

紅いソファに映える真っ白なその顔は、初めて見た時よりずっと生気に満ち溢れているというのに。


「…第二の、修羅」

ギラギラと生気に満ちたそれが、絶望に打ちひしがれた。
間抜けなのは確かだが、頭の回転は悪くないらしい。
というより、悪い勘がよく働くのか。

間髪入れずに呟かれた重要な鍵を握るその言葉に、思わず褒美の笑みが漏れた。

その微笑に、倫子の顔が強張る。


「よく考えれば解ることだ。なにせあれを相手にするのは、年老いたとはいえ、わたしでも骨を折る」

現役として働いていた頃ならともかく―──いや、それでも、あの巨大な力に太刀打ちできたかすら怪しい。

あれはとんでもない化け物へと成長してしまった。



「雲雀を相手にすれば、犠牲も労力も倍必要になる。年老いたわたしに残された時間は、少ないからな…」

人の醜さに辟易し始めたのは、確か十代の頃だった。

アダムとして献身的に国に尽くしてきた時もあった。
しかし、人の欲深さに嫌悪し、有害なる病人として嫌悪される日々に絶望を覚えたのはもう随分と昔になる。


「無能な人類などにこの美しい星は過ぎたもの。我々アダムこそが、この階級社会の頂点に立つべき高尚なる生き物なのだ」

───アダム帝国。

下らない名称を付けたことに理由などなかった。
ただ、この人類中心の世界を実質的にアダムのものにすり替えるための、壮大な野望を端的に表しただけのこと。

それには力も金も地位も権力も、そして優秀な駒すら必要になる。


「傀儡を使うわたしに、優秀な駒集めなど必要なかったが、しかし」

独りよがりの馬鹿げた改革は、自らの恥を曝すだけだ。





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