AEVE ENDING
長い廊下。
人影なし。
反響する自分への皮肉。
(これ。これがさ、凄くクるわけよ。どこにって、胃に。胃にさ、キリキリと……)
限界の針はとうに振り切った。
倫子は意を決したと同時、勢い良く足を跳ね上げさせる。
狙うは雲雀。
すらりと美しい右脚、膝裏。
「転けろ!無様に転けろ!アハハハハハ!」
まさに自らを低俗と明言して憚らない叫び声を上げ、倫子はその長い脚へとフルスイングした。
「…馬鹿だね」
感情任せとはいえ、鋭く強力に繰り出された蹴りが雲雀の膝に当たる―――寸前に、倫子の足は空を切った。
スカッ。
見事な空振りである。
しかしそのままでは終わらなかった。
「ん、な゛!」
目を丸くするのは当然。
視線が随分と高い。
先ほどまで見上げていた筈の雲雀を、今は真上から見下ろしているとは何事か。
身体に掛かる無重力。
頼りなく「得体の知れないなにか」に支えられている感覚。
―――倫子は。
「なんだこれ!」
宙に浮いていた。
「僕に手を挙げるなんて、千年早い」
雲雀はその端正な顔で艶やかな笑みを作り、浮遊する倫子を嫌味たっぷりに見上げている。
「挙げたのは手じゃねぇよ!」
サイコキネシスによって不本意にも空中に押し上げられたまま、倫子は果敢に突っ掛かる。
それを満足げに眺めながら、雲雀。
「口答えもね」
―――ギシリ。
「……っ!」
雲雀の言葉を合図に、身に纏っていた空気が音を立てて軋んだ。
重さと圧力を増した空気と空気に隙間なく挟み込まれた体が、絞られた雑巾のように捻じ上げられている。
「カ、っ…」
肺が潰されて、息が出来ない。
「ぐしゃぐしゃにされたメモ帳みたい」
クス。
自分が苦しむ目下で、腹立たしいほど柔らかな微笑が爛々と輝いていた。
(ク、ソ…!こいつ…、!)
ギリギリと捻り上げられた腕が今にも千切れそうだ。
器官を締め上げられていて悲鳴すら上げられない。
声が通る隙間もない。
身体に掛かる重圧と圧力。
朦朧とする、意識。
沸き上がっていく、忌々しい痛みと記憶。
引き絞られていく感覚の尖。
(あぁ…こんな、…―――)
そこでふつりと、途切れた。