AEVE ENDING





「……犯罪者、か」

ぽつりと吐き出された言葉と共に、桐生が立ち上がる。

この脆弱な体を圧倒する威圧感に、思わずソファにへたり込んでしまった。
濃い闇の中で、黒い服を纏う男の体は浮き上がらない。

───その白濁した片眼だけが、異様に光に照らされてギラついている。


一歩、一歩。

ゆったりと近付いてくる桐生との距離が縮まる度に、膨らんでゆく恐怖心が憎い。
毛長の絨毯が桐生の足音を全て吸い取り、怪しさを増すばかり。

(対峙した時の、この後ろめたい、気持ちは)

同様に、雲雀を前にしても同じだ。
この真っ直ぐな残忍さに、責められている。



「―──犯罪者、か。君がそれを言うのかね?」

底まで落ちたこの身を知る者を。



『ほら、餌だぞ』
『…要らない』
『何故?それほど血に飢えているのに』
『…煩い、黙れ、黙れ、黙れ!私には、必要ない!』

自ら吐き出した喉を痛める悲鳴が、耳にこびりついて離れない。


(───あの、醜い、私の手を)

焼き付く、全てに浸透する、血の海を。


頭のなかに絶望の鐘が鳴る。

はじめから罪人に救いなど用意されていないと、知っていた筈なのに。




「、知って、る…?」

血の気が引いた。

ソファに腰掛けた体が無意識に弛緩する。
恐怖に、罪悪に、それを知る者の、存在の確実さに。

その白濁の眼に、見透かされている。


「知っていたさ。研究課程は全て、わたしに報告されていた」

怯える倫子を、白濁が嗤う。
それは忌まわしく不穏で、凶悪な愉悦。



「───ちなみに、ある女性にちょっとした助言をしたのはわたしでね」

重なり合うシグナルの異様さを、知っている。



『あの女性に進言した者がいたらしい』
『…可愛い息子を』




「───可愛い息子を、国のモルモットにしたくなければ、」

冷たい、声が。



(あぁ、神様)




「…代わりを、見つければいい」



私を、貶めた者。









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