AEVE ENDING
そして、十四の夏だった。
既に体も意思を棄てていたリィのもとへ、ロゥがおもむろに訪れた。
会うことを禁じられていた上、仕置きを恐れたリィは弟に部屋へ戻るよう泣きながら縋ったのを覚えている。
焦燥するリィをよそに、ロゥは笑った。
逃げよう、と夢みたいな言葉と共に。
リィのまだ青い身体を組み敷きながら、馬鹿みたいに喘いでいた客を殺し、その悲鳴に駆けつけた使用人も、それから父親も。
―――そしてリィとロゥは、残っていた母と姉を殺して、家を焼いて逃げた。
その後すぐだ。
今の主に拾われ、仕えるようになったのは。
「僕らと変わらない、この人も、痛い思いを、幾度となく、して」
そして終いには。
真っ暗な闇色に融けていく。
相反する色合いの筈なのに、滲む白は、やはり生身の人間には見えない。
―――まるで。
「死人のように美しい」
「…!」
背後から掛けられた、淡々とした声に驚愕して慌てて振り向いた。
白濁がずるりと闇から浮かび上がる。
「そうは思わないかね?」
くつりと口角を上げるその人は、リィ達を囲み、家を与え仲間を与えてくれた人。
けれど今胸に抱くのは、畏怖でしかない。
「桐生、様…」
白濁の眼に圧され、呼吸することすら阻かられる。
喉が涸れてゆく。
落ちてゆく。
白に阻まれて、落ちて。
―――くつり。
白濁が嗤う。
脆弱な闇に木霊する笑みに、背筋が震えた。
「その陰鬱な表情はなんだ?愉しい宴は、これから始まるというのに」
静かに、落ちていく。
その巨大な圧力に竦むふたつの若い身体から視線を外し、桐生はゆるゆると嗤った。
「私の人形も、完成した」
パタ…。
滴る水音に、双子の小さな心臓が跳ねた。
パタ、タ。
リィの腕を掴むロゥの指に、無意識に力が籠もる。
背中に掛かる、痺れるような痛みに、瞑目した。
ぺたりと、湿りきった肉が床を叩く音。
ぱたぱた、とバランスを崩して、骨や肉を軋ませる音。
「…、っ」
―――あぁ、振り向けば、白に殺されてしまうと、思った。